起業家インタビュー / 株式会社エスプリア 代表取締役 谷口亮太/取締役 三浦孝広

シミュレーションが開く、気づきの扉——多彩なノウハウと機転の利いた発想を活かした共創のモノづくり

 2025.10.3

J-Create+に入居する起業家の方々をご紹介するインタビュー企画。


今回ご登場いただくのは、株式会社エスプリア 代表取締役の谷口亮太さん、取締役の三浦孝広さんです。


ものづくりの可能性を広げる数値シミュレーション。その力を信じ、「自社の利益よりも、モノづくりの未来にこそ軸を」という想いを胸に株式会社エスプリアを起業。多彩なノウハウと機転の利いた発想を活かし、製造業に新しい視点と解決策をもたらすお二人に、起業の経緯や事業への思い、そしてこれからの展望をうかがいました。


シミュレーションとの出会いと独立への道


代表取締役である谷口さんは、大学院卒業後、サイバネットシステム社にてCAEソフトの技術サポート、技術トレーニング、営業支援活動など幅広い業務を担当されました。


「大学時代に簡単なシミュレーションプログラムを組んだ経験はありましたが、最初に入社した会社で本格的に“数値シミュレーション”の世界に飛び込みました。そこでは、Ansysという汎用シミュレーションソフトが、ただ面白くて夢中で触っていました。おそらく、社内の誰よりもいろんな分野に首を突っ込んで遊んでいたと思います。


10年ほど同社に勤務する中で三浦さんと出会いました。三浦さんはもともと建設資材メーカーで設計開発をしていましたが、シミュレーションを専門にやりたいという想いでサイバネットシステム社へ転職しました。シミュレーションの経験年数としては、私よりも長く20年近くになります。


私たち二人の性格は真逆なんですけど、一緒に仕事をしていく中で、考え方や姿勢の部分で“あ、この人とは合うな”と思うことが増えていきました。不思議とぶつかることもなく、むしろ支え合える関係なんです。」


この出会いが二人にとって大きな転機となりました。代表取締役谷口さん


「当時は働き方改革の流れもあり、業務効率化が優先される一方で“もっとお客様に寄り添いたい”という思いがありました。もともと中途半端が嫌いな性格もあり、理想を実現するにはどうすべきか──独立か転職かでお互い悩みました。


ちょうどそのタイミングで、CAEに関する新事業を立ち上げたいというお話をいただき、二人でその会社に転職。部署の立ち上げと新規事業に挑戦することになりました。ゼロからのスタートだったため転職先の方々にもご苦労をおかけしましたが、私たち自身も多くを学ばせていただきました。この経験は、今回の独立に本当に大きく役立ったと感じています。」


これらの経験を重ねる中で二人は「さらに志を追い求めたい」という想いを強くし、独立を決意。そして、株式会社エスプリアを創業し、新たなスタートを切りました。


仮想実験で広がるものづくり支援


取締役三浦さん


谷口さんと三浦さんのこれまでの実績と経験を土台に設立された株式会社エスプリアは、数値シミュレーションを活用した技術サービスを展開。創業したばかりながら、すでにいくつかの受託案件が動き始めています。


「エスプリアの事業は、製造業向けの数値シミュレーション(仮想実験)に特化しています。これまで二人が培ってきた経験は、自動車や家電、電子機器といった身近な製品から、宇宙産業、原子力、建築・土木、医療、生産工場の搬送分野まで多岐にわたります。


仮想実験の強みは、実験では見えない部分まで掘り下げられることにあります。物理試験ではセンサーや観測装置を設置した箇所しか測定できませんが、解析なら構造全体を追うことができ、センサーを置けない領域の挙動まで把握できます。また、現実の実験では熱・変形・流体など複数の現象が同時に絡み合いますが、シミュレーションなら条件を一つずつ切り分けて検証できるため、原因の特定や設計改善に新しい視点を与えます。


私たちが大切にしているのは、シミュレーションを単なる“見える化”にとどめず、そこからお客様にとって役立つ知見をどう引き出すかという視点です。せっかくコストと時間をかけて計算する以上、結果を最大限に活かし、“次の一手”につなげることが重要だと考えています。


特に中小企業のお客様の中には、解析を初めて扱う方も少なくありません。数値シミュレーションは入力条件や境界条件によって結果が大きく変わるため、経験のない企業にとっては解析条件の設定自体が難しいことが多いのです。だからこそ私たちは、お客様の目的や課題を丁寧に汲み取るための対話を重視しています。そして、必ず何らかの価値を見出せる結果をお返しし、その積み重ねを信頼につなげ、リピートしていただくことで会社を運営していきたいと考えています。」


エスプリアは、この的確な課題抽出と納得できるまで解析を行う姿勢が評価され、創業間もないながらも既に依頼がきています。口コミや紹介を通じて、取引先も少しずつ広がり始めています。


依頼された仕様通りの作業から本質的な課題解決へ


そんな谷口さんと三浦さんが一貫して強調するのは、仕様を満たすだけでなく“本質的な課題解決”に取り組む姿勢です。お客様と対話し、解決の道筋を共に描く──そこにエスプリアの理念があります。


しかし、この取り組みは事前に工数を正確に見積もることが難しく、一般的な工数管理を重視する企業方針の中では実現しづらいのが現実でした。だからこそ「志」を持って独立し、この理念を実現する道を選んだのです。

談笑している様子


「これまで経験してきた『仕様通りに終えることが目的化した仕事』ではなく、お客様が真に求めている課題解決にこそ価値があり、そこにエンジニアとしての喜びがあると。そのためエスプリアでは、仕様を満たすだけでなく、納得できるまで解析を重ね、最適解を導き出す姿勢を大切にしています」と谷口さんは語ります。


本質的な課題を解決すること、そして、お客様の真の満足を得ることが、エスプリアの目指すところです。


「企業として成長していくためには『人』の力が欠かせません。現在は二人で事業を進めていますが、将来的にはこの志を共にできる仲間を迎え入れたいと考えています。また、技術者が満足して働けるような待遇や人材育成にも力を注いでいく方針です。“場が人を育てる”という考えのもと、エスプリアという場を通して成長を後押ししていきたいと考えています。」


単なる解析業務の提供にとどまらず、『お客様との対話によって課題を共有し、解決への道筋を共に描いていく』──そこにエスプリアならではの理念があります。


「エスプリア」に込めた思いと未来への展望


社名「エスプリア」は、フランス語の「Esprit(知性・切れ味のある発想・ユーモア)」と日本語の「和」を組み合わせた造語です。


「柔らかくウィットに富んだ響きにこだわり、技術系企業のイメージを刷新しました。

今後は、中小企業のものづくり支援を中心に、CAE(数値シミュレーション)の普及と価値向上を積極的に進めていきたいと考えています。また、今後コンピューターの計算能力が飛躍的に向上した場合、モデル規模を大幅に上げることでこれまで不安定だった問題などが簡単に解決される未来がくるかもしれません。シミュレーションはまだまだ大きな可能性を秘めています。


さらに、技術サービス事業だけでなく、自分たちでも製品企画や設計開発を行い、ものづくりへの挑戦を視野にいれ、地域との連携を深めながら、技術の可能性を広げていくつもりです。そして、技術者としてだけでなく経営者としても成長を続け、企業としての責任を果たしていくことを目指しています。」


谷口さんと三浦さんの信念と志、そして次世代技術が、社会課題にどのような調和をもたらすのか──今後のさらなる活躍が期待されます。


談笑している様子


J-Create+に入居して


お二人がJ-Create+を知ったのは、城南信用金庫のホームページがきっかけだったそうです。ものづくりとの親和性が高い大田区・蒲田という立地に魅力を感じ、入居を決めたといいます。


「入居後は、運営元である城南信用金庫からのサポートやアドバイスが充実しており、経営未経験でも安心して事業に専念できる環境が整いました。今後は、ものづくりフェアや地域の展示会など外部との連携も積極的に活用していきたいと思っています」


まとめ


本音で語り合い、互いを尊重しながらものづくりの未来に挑む谷口さんと三浦さん。技術と信念を武器に、経営者としても成長を続ける姿勢は、多くの中小企業の希望となるでしょう。地域に根ざした新たな展開への期待が高まります。


インタビュイー紹介


数値シミュレーション分野で10年以上の経験を持ち、航空宇宙や自動車産業など、幅広い領域の解析に従事。2025年、J-Create+を拠点に株式会社エスプリアを創業し、中小企業のものづくり支援に注力している。


 


株式会社エスプリア



代表取締役 谷口亮太 / 取締役 三浦孝広




株式会社エスプリア

株式会社エスプリア

解析技術と発想力で、ものづくりを支援するエンジニアリング会社。CAEによる設計支援を中心に、幅広い技術サービスを提供。

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